転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


167 ルディーンの隠し事?



 所変わって、イーノックカウの錬金術ギルド。

「内臓の肉に関しての事は解りました。では次に」

「まだ何かあるんですか?」

「ええ。実は先日、ルディーン君にパンケーキと言うものを作っていただいたのです」

 パンケーキ? ルディーンは毎日村の人たちに焼いてやっているから別にここで振舞っていたとしても不思議でもないけど、それがどうかしたのか?

「はぁ」

「それで、そのパンケーキに使われているベーキングパウダーと言うものが使われているとルディーン君に窺ったのですか、これはグランリルでは昔から使われていたのですか?」

「えっ? いえ、あれは前にイーノックカウに来た時にルディーンが自分で見つけてきたものですよ」

 あれ? 確かその時、ここでルディーンがその話をしたはずなんだが。

 そう思って聞いてみたんだが、

「ええ、あの時ルディーン君はお菓子を作る材料を見つけたと喜んでいたのを覚えてはいます。ですが、何の知識もなくあの食器を洗う為の粉を食材に使うと思いついたとは思えなかったのです」

「それにのぉ、あの時ルディーン君は記憶の中に使い方があったから買ってきたと言っておった。じゃからわしらは、あのベーキングパウダーとか言うものがグランリルで昔から使われておったのではないかと思ったのじゃよ」

 ん? ああ、そう言えばそんな事を言っていた気がするなぁ。でもうちの村では誰もそんな物を知らなかったのは確かだ。

 だからこそ、あの粉を使ったパンケーキがとても珍しく、村中で流行ったのだから。

「なるほど。でもうちの村ではあんな物、誰も使ってませんでしたよ」

「ならばルディーン君が言っておった、記憶にあったと言うのはどういう事なのじゃろうか?」

「そうですねぇ。ルディーンは暇があるといつも図書館に行って本を読んでましたから、その中にそんな物が出てくる話があったんじゃないですか?」

 少なくともシーラが知らなかったんだから、村の誰かから聞いたという事は無いだろう。

 ならやはり図書館にあった本の中にあの粉と煮たようなものが載っていたんじゃないかと俺は考えている。

 事実ルディーンは鑑定解析とやらで生クリームを露天で見つけてきたからな。

 あのベーキングパウダーとやらも、同じように露天でそれを使っていたときに見つけたんだろう。

 だから俺は、自分の考えを語ってみたのだが、

「ふむ。確かあの時、ルディーン君は露天で色々見つけたと言っておったなぁ。その中にはわしも聞いたことが無いものが混ざっておったし、もしかするとその通りかも知れぬ」

「そうですね。確かにルディーン君はなまくりーむとか言うものも見つけたと言ってました。ですが、私はそのような食材を聞いたことがありませんから、実際鑑定解析で見つけてきたのかもしれませんね」

 まぁ何でもかんでもその鑑定解析とやらで片付けるのは少し乱暴な気がするが、実際内臓の肉のように食べられないと思われていた物が食べられるって解ったのはその鑑定解析とやらのおかげだ。

 それならばそのベーキングパウダーとやらも、同じように食べられると解ったとしてもおかしくは無いだろう。

「しかし、そう考えると一つ心当たりがあるのぉ」 

「心当たり、ですか?」

「うむ。確かあの時、ルディーン君はあの粉の事をベーキングパウダーではなくぽいものと言っておった。そこから考えるに、彼の知識にあったものとよく似た効果のあるものを露天で見つけたと考えられるのでは無いか?」

 なるほど。ルディーンが今使っているものは本来見つけたかったものじゃなく、その代用品って訳か。

「これはあくまでわしの推論でしかないが、多分ルディーン君は村で読んだ本、そうじゃのう、御伽噺か何かに出てきたお菓子を膨らませる魔法の調味料と同じような効果をあの粉を使えば出せる事に鑑定解析を使う事で気が付いたのじゃろう。じゃからベーキングパウダーでは無くぽい物だと表現してのではないか?」

「確かにそうですね。そう言われるとしっくり来ます」

 ませるだけで簡単にお菓子ができる粉か。確かに物語に出てくる魔法の調味料っぽいな。

 そんな物を見つけたらそりゃあ嬉しくなるだろうし、凄い物を見つけたって言いたくなるのも解る気がする。

 そしてその粉をルディーンが見つけてくれたおかげで、うちの村ではみんなパンケーキを食べることができてるって訳か。

「それではもしかしてなまくりーむと言うのも?」

「うむ。何かの本に載っていた物じゃろうて」

 ここで俺はちょっと引っ掛かりを覚えた。

 と言うのも、さっきギルドマスターがルディーンにパンケーキを焼いてもらったと言っていたのに、あいつはなぜそれに乗せる生クリームの話をして無いんだ? 

「えっと……その生クリームですが、ルディーンはパンケーキを食べるときに上に乗せたら美味しいと言っていませんでしたか?」

「と言うと、なまくりーむと言うのはジャムやバターのように、パンケーキに塗って食べるものなんですか?」

 やっぱり話してないのか。

 その理由が俺にはさっぱり解らないが、別にここで話してしまってもルディーンに怒られるなんて事は無いだろうからと、俺は彼らに生クリームがなんなのかを話したんだ。

「ほう、容器に入れた牛乳の上にたまるドロっとした所とな?」

「はい。ルディーンはそれに砂糖を加えた物を魔道具でかき回してふわふわとしたお菓子にしてパンケーキの上にかけているんですよ」

 すると爺さんだけでなく、ギルドマスターまでが何やら考え込んだような顔をする。

 だが何故だ? 今の話にそこまで考え込むような内容は無いと思うんだが。

「なるほど。ではルディーン君が隠していたのは……」

「ええ、その魔道具でしょうね」

 ところが二人がわけの解らない事を言い出したんだ。

 ルディーンが隠し事? この二人に?

 正直あのルディーンが誰かに隠し事をするなんて思いもしなかったし、何よりその魔道具と言うのがただの料理を作るための道具と来たもんだ。

 正直、俺にはその魔道具がわざわざ隠しておかなければならないほどの秘密だとは思えなかった。

「して、その魔道具と言うのはどのような物なのじゃ?」

「牛乳の上澄みをふわふわとした別の物に変えてしまうと言うのですから、何か変わった動きをするものなのでしょうか?」

「えっと、俺は自分で使った事が無いからはっきりとは言えませんが、別に特別な動きをするものでは無いと思いますよ」

 とりあえず魔道具の形状と、スイッチを入れた後の動きを軽く説明する。

「高速で回転ですか?」

「ええ。ルディーンが言うにはかなりの速さでかきませる事ができて、これによって生クリームに多くの泡ができるそうです。確かホイップクリームって言ってたかな? 出来上がったお菓子の事をそう呼んでましたよ」

 その原理は良く解らないが、生クリームとか卵はかなりの速さでかき回すとそんな風になってしまうらしいんだ。

 まぁ卵をあんな風にする意味が無いのか、うちでも生クリームくらいにしか使って無いけどな。

「あまり聞いたことが無いお菓子ではありますが……ですが、ルディーン君がわざわざ秘密にするような魔道具とも思えませんね」

「うむ。と言う事はわしの勘違いじゃったかな?」

 ただ俺の話を聞いた二人はどうやらその魔道具が秘密の無いようでは無いと考えたようだ。

 そりゃそうだ。あんなのを秘密にする必要なんてあるはず無いからな。

 と、この話をしていたからか、俺はあることを思い出したんだ。

「ああそう言えば、ルディーンに買ってきてほしいものがあるって言われてたんだっけ」

「買ってきてほしいもの、ですか?」

「ええ。確か植物から取れる油と穀物から作ったビネガーだそうで、露天には無いから食品を扱っている商会で買ってきてくれって頼まれたんですよ。変わった注文でしょ?」

 油やビネガーなんてどれを使っても同じだと俺は思うんだけど、ルディーンは食べ物に関しては何かこだわりがあるみたいだし、シーラたちもルディーンが言うんだからきっと追い下野ができるんだろうから、絶対買って着てって頼まれてるんだよなぁ。

 それを思い出して俺がクスッと笑った、その時だった。

「そうか! そうじゃったのか!」

 目の前の爺さんがいきなり立ち上がって、そんなことを叫んだのは。


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